風のちから、パタゴニアの自然

2014年3月5日 いざフエゴ島へ

ヨーロッパへ渡る日程を決めてしまった僕たちは、カラファテからプンタアレナスまでをバスでスキップすることにし、南米編の最後の走行地として厳しい自然のフエゴ島を選んだ。

フエゴ島は南米大陸とはマゼランを隔てて南側にある島だ。それと同時に一般的な旅行で訪れることのできる世界最南端の都市、ウシュアイアが存在する。(小さな集落であればビーグル水道を挟んでプエルトウィリアムズという村が少し南に存在する。)

世界の果て、なんて呼ばれるけど、実際にその自然環境は過酷で、何もない荒野が広がり、南極に極めて近いこともあって、世界の果てを思わせる景色が広がっている。


プンタアレナス港を15時に出港するフェリーに乗ることにし、少しばかり寄り道をした。

一つ目は免税エリア。ここプンタアレナスには、免税エリアが設けられていて、輸入品を安く買うことができる。
僕はアウトドア用品を見たかったのだけど店がシエスタに入ってしまい、仕方なく大きなホームセンターに入ってみる。そこでipad用のカードリーダーを購入。今までチリではどこにも売ってなかったのに、あっさり購入できてしまった。それも400円程度。

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(Made in chinaばかりだけど、価格はたしかに安い。)

免税エリアを出て、海沿いに少し走り、今度はマゼランが世界一周した際に使ったビクトリア号のレプリカを見学しに行く。
この小さな帆船に食料や水、武器を積み込み、3年間もかけて世界一周をしたわけだ。3層に別れた内部は狭く暗く、航海の厳しさが伝わってくる。

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(ビクトリア号のレプリカ。内部も精巧に作ってある。)

15時、いよいよフェリーに乗り、マゼラン海峡を渡ってフエゴ島チリ側唯一の町、ポルべニールを目指す。途中、イルカが船の伴走をーしてくれた。

フエゴ島に上陸。時間は18時少し前。ポルべニールの町に一泊しようかとも思ったのだけど、少しでもウシュアイアに近づくべく走り出す。丘陵地帯を抜けるとマゼラン海峡が見えてくる。この日はポルべニールから15kmほど走ったところに立つ漁師小屋の中にテントを張らせてもらうことにした。

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(写真右下:テントを張った漁師小屋。この付近にはこうした漁師小屋が点在していた。)

2014年3月6日 フエゴ島を横断

アルゼンチンに入国すべく、フエゴ島を横断する。
道は未舗装のまま。だけど、走りにくくはなく快調に進んでいく。

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お昼を過ぎた頃、背中を押す風が少しづつ強くなってきた。写真を撮るために自転車にブレーキをかける。なかなか止まらない。ようやく止まると、とんでもない強風が後ろから吹き付けていた。追い風に乗って走っていると気がつかないけど、止まると風の強さに気がつく。

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(パタゴニア名物、斜めに生える木。もちろん強く吹き続ける風が原因だ。)

この日、実はある場所へ向かうために急いでいたのだけど、その場所への分岐についた16時。簡易風速計で測る風は、なんと風速30m毎秒に達していた。とてもじゃないけど進むことなんかできない。

分岐にあった小屋の中に急いで避難してここで一泊することに決めて中にテントを張る。パタゴニアの風、強いとは聞いていたけどこれ程とは。

小屋の中はとても静かで風をしっかり防いでくれる。久々に快眠できた。

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(瞬間最大風速はなんと29.5m毎秒を記録。いやーほんと、信じられない風の強さです。)

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(一泊した小屋。避難所として最適でした。)

2014年3月7日 王様に会いに

キングペンギン。実はこの分岐から15kmのところにキングペンギンの営巣地がある。今はガイドブックにも載っているし有名になってしまったけど、少し前まではチャリダーやライダーしか訪れることがなかった場所だ。

僕たちはキングペンギンに会うことが楽しみでフエゴ島を走ってきた。でも昨日の風は、僕たちのペンギンへの思いを打ち砕くには十分すぎるほど強くて、「あの風の中を行くくらいなら、旭山動物園に行った方がマシだ」なんて勿体無いことを言い出す始末。

それでもやっぱり諦めきれない僕たちは、この分岐で一泊し、「もし明日の朝風が強くなければ行ってみよう」と話していた。

朝起きると、風はない。ほぼ無風だ!
チャンス!

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(フエゴ島の荒野を走る。荒涼とした土地は、世界の果てを感じさせる。)

急いで身支度を整えちょっとだけご飯を食べて出発した。
道は悪いものの、風はない。あっという間に15kmの道のりを走りペンギン公園に到着。
いよいよキングペンギンとの対面だ!

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(こっそり近づいて行くと、何やら白い動物が・・・。)

キングペンギンは、コウテイペンギンの次に大きいペンギン。首元のオレンジが印象的だ。

並んで歩く姿は本当に可愛らしいの一言。
この日のために日本から運んできた望遠レンズを装着し、ペンギンを驚かさないように距離をとって写真を撮らせてもらった。

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すっかり時間を忘れてペンギンの可愛らしい姿に見とれてしまう僕たち。

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(ここでは野生のペンギンたちを見ることができる。)

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(アザラシ?も寝そべっていた。)

小一時間ほどたちペンギン村を後にする。
分岐への戻りは向かい風。風が今日も吹き始めてしまった。
なんとか分岐に戻り、お昼ご飯を食べて再出発。アルゼンチンを目指す。

この日の風は北西。北北西から吹いたり真西から吹いたりと幅がある。僕たちは真東に進むので真西であれば追い風になるのだけど、北北西の場合ほとんど横風になって走りにくい。

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フエゴ島の荒涼としたパンパの中をひた走って、国境のサンセバスチャンに到着。チリ側のイミグレーション職員のための家を風よけにさせてもらってテントを張る。念のため張り綱をすべて張り、ペグもしっかりと打ち付ける。売店があってコーヒーとホットドックを買った。チリペソを使うのもこれが最後。4ヶ月に渡ったチリの旅も終わりだ。

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(写真右:パラボラアンテナの隙間にテントを張らせてもらった。)

夜は風が強く、テントが煽られるもペグダウンを入念にしていたおかげでテントは微動だにしなかった。さすがモンベルの山岳用テント。

3月8日 パタゴニアの爆風

アルゼンチン国境へ向けて走り始める。10kmほどで国境へ到着。係官に「自転車でウシュアイアへ向かうのか」と質問され、「そうだ」と笑顔で答える。今までに何千人、何万人のサイクリストがこの国境を通ったのだろう。

朝は弱かった風も昼頃には盛大に吹き付けるようになる。
南東に向かう僕たちにとっては追い風。漕がなくても40km近いスピードが出る。目指すリオグランデまで60kmほど、2時間程度で到着できる。久々に気持ち良いサイクリング。初めて見る大西洋も輝いて見える。

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(フォークランド諸島はアルゼンチンのもの!という看板。詳しくはフォークランド紛争を検索!)

程なくして、道はほぼ真南へ転進。

すると今まで追い風だった風が横風に変わる。

この時の音、感覚をなんと言葉にすればいいかわからない。
人間の力など全く0に等しい、無力感。
ドーーンと突風が吹き付けまともに走ることができない。風速計で測ると常に20~30m毎秒の風が吹いている。

目を閉じて日本人が想像できる最大の風、台風の映像、そんな風がとどまることなく吹き続けているのだ。

僕は辛うじて体を捻り、帆船の帆のイメージで横風を推進力へ変えることができるけど、彩はそうはいかない。軽い体が煽られて全く前に進めなくなってしまったのだ。下手に止まると風のエネルギーを全身、自転車全体で受けてしまい、その場にとどまることすら叶わない。

止まることで風を受けると今度は一気に体温が下がる。このまま前に進めなければ、低体温症になってしまう。風よけは周囲にはない。

快調なサイクリングは途端に修羅場になってしまった。
路肩がないアルゼンチンの道はすぐ脇を大型トレーラーが走る。
とても危険な状況だ。

安全には変えられない。自走を断念してヒッチハイクを試みる。
幸い2台目の車が窮状を察してすぐに止まってくれた。急いで荷物を積んでリオグランデへ向かう。

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(親切なおじさんが止まってくれた。)

いやー、しかし大変な風だった。車も煽られて右往左往。
こんなところに住むなんて信じられない。。

リオグランデにつきお礼をいって、事前に調べていた宿に泊まる。彩はあまりの恐怖に言葉少なげ。

こんな風だとウシュアイアに向かうのも無理だ。なんて話をしながら就寝することにした。


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